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吉村ゴンゾウあわー

自作のショート・ショートや読書感想などをアップしています。気負わず適当にやります。テーマは「中途半端を恐れない」。

つわり

 妻には「つわり」がないらしい。
 ようやく12週目というところだが、今のところこれといってつわりの症状が見受けられない。よく聞くのが「ご飯の炊ける匂いで吐き気をもよおす」とか「朝起きた瞬間に激しい頭痛と嘔吐に見舞われる」とか「もはや何も食べれない」などだが、妻ときたらケロッとして、食べたいときに食べたいものをパクパク食べて、そしてひたすら寝てばかりいる。僕が「そんなに食べて気持ち悪くなったりしないのか」と聞くと、「私、食べるのだけが楽しみだから」と笑っている。
 なんにせよ、皆がつらいと言っているつわりを経験しないですむなら、まぁそれはそれでいいことなのかもしれない。ただ、まったく何もないわけではなくて、本人いわく「一気に20も年をとったような疲労感」があるらしい。あまりにすぐに疲れるので、できるだけ疲れないようにと、家でごろごろしてるわけだが、ごろごろするのにも疲労を感じるらしく、よく「疲れた」とか「眠い」などと言っている。食べるだけ食べてごろごろと昼寝ばかりしてるくせに、疲れたも眠いもないと思うわけだがそれは口にできない。「だったらお前が生めよな、こらぁ」と言うのが妻の口癖だからだ。多少腹は立っても代わりに生むわけには行かないので、彼女がこれを口にしないように日ごろから言動に注意しておく必要がある。こっちだって無駄な喧嘩はしたくないのだ。本格的なつわりで苦しんで、なんだかんだと八つ当たりされることを考えれば幾分ましだともいえる。
 しかし、皆が通る道を通っていないとなると不安を感じるもので、妻は先日医者に見てもらったときに「つわりがないのだが大丈夫か」と聞いたそうだ。そして「そろそろピークのはずだけど、人それぞれですから」と言われたらしい。ひどいつわりが出る人もいれば、まったく感じない人もいるということだが、なくてもいいなら「つわり」などない方がいい。妻は、つわりがないことが宝くじにでもあたったように感じているらしく、「ついてる。これなら出産そのものも安産に違いない」と確信するにいたった。それはどうだか、と僕は思っているのだがこれも口にするのはよしておいた方がいいだろう。
 なにしろ、妊娠・出産に関わるすべてのことが初体験なわけで、我々新米夫婦にとって不安は尽きない。検査も月に一度程度なので、僕などは「今はどうなんだ。大丈夫なのか。次医者に見せるのはいつだ」と、四六時中気になって仕方がない。1・8ミリだとか、3ミリだとか言われて、テレビの砂嵐みたいな写真を見せられても、ちっとも実感がわかなくて、「本当にここにチビが入ってるのか」と妻の下腹をポンポン叩いてみたり耳をあててみたりするのだが、僕にはチビの実態を感じることができない。ようするに、状況を常に確認していたいのに、状況どころか一体どこにいるのかも確信を持てないでいるのだ。一方、妻の方ではチビのことなどさておいて体型の維持についてが最大の関心事のようだ。「今は太ってはいけない」だとか「何キロまでなら体重を増やしてもいいか」といったことをいつも研究していて、産後に何ヶ月で元の体型に戻せるかを先輩ママ達に聞いて回っているらしい。最新の情報では「産後に体型を戻しても胸や腹の皮を引っ張るとビロンと伸びる」だとか「体型が戻る前でも、せっかく大きくなった胸が元に戻ってしまう」などが判明しているそうだ。本当にどうでもいいことだと思うが、やはりこれも口に出してはいけいない。
 まだまだ親になりきれない二人だが、チビにはめげずに元気に育って欲しいと心から思う。僕たちも親として精一杯成長する。チビもがんばれ。