あまりにも突然のことだったので対応できず、とにかく妻を大声で呼んで処置をお願いした。私はなにかと頼りにならないとつくづく思う。何か悪いものでも食べたか、へんなものを口に入れてのどにつまらしたか、なんとなくゲップとともにだしたのか、あれこれ考えたが、とりあえず水分補給をと思って水を与え、妻に授乳を指示した。心配した割りに意外とケロッとしているので、たいしたことないのかと笑っていたが、ものの30分で娘がぐずりだし、座らせても何かふらふらしていると思ったら、また胃の中のものをすべて出してしまった。今思えば、ぐずりだしたときも、気持ち悪そうな、吐きそうな表情だったような気がする。さすがに2度吐いて娘も異変を声に出して訴えるようになり、もう空っぽになったはずの胃から何度も吐こうとしては苦しそうに涙を流していた。
これはもう、素人の手には負えない。そう思った私たちは、手元にある子育て関連の本をかたっぱしから引きずり出して「嘔吐」に関する項目を真剣に読んだ。可能性が当てはまるのはロタウイルス感染症だった。このあと熱が出て下痢をすれば確定だが、このままでは脱水症状を起こしかねない。
私は翌日から出張の予定で、朝早くの新幹線に乗らねばならなかったが、そんなことも行ってられない。娘を抱っこひもで体にくくりつけ、上からジャンバーを着込んで自転車に乗って夜間急病診療所に走った。私は、この自宅から自転車で10分程度の診療所に、実はよくお世話になっている。現在の家に引っ越す前にも何度か訪れているのだが、自分自身が元気な状態でここに来ていることがとても不思議な感じだった。娘はもうすっかり疲れきって、ぐったりと私の胸にはりついている。もう泣き叫ぶのもしんどいらしい。
診察はとても簡単なもので、体重を量り一通りの触診を終えると、「よく水分を取って、明日必ず病院に行ってください」と言われ、「もどしくだしで菌を外に出すので薬は出しませんから」と結局なんらの処置無しで帰宅することに。
私たちは、夜が明けるまで、ちょびちょびとイオン水を与えては吐かれ、泣いてはまた水を与えで、布団もタオルもぐちゃぐちゃ。娘の着替えの服もなくなってしまい、夫婦にとっても大変な戦いになってしまった。しかも私はそのまま妻と子を残し出張にでなくてはならない。くたくたのまま出かける私もつらいが、病気の娘を託されて残った妻はもっと大変だっただろう。しかし仕事は仕事。心苦しいが、私は「とにかく病院に」と言い残して旅立ったのだった。
病院では「まず間違いなくロタウイルス」と診断され、点滴を打ち、座薬の解熱剤を入れてもらった。その日は熱が高く、だんだん水もうけつけなくなり、衰弱しているように感じたと妻は言う。それでも「まぁ、病気だからぐったりしてても当然」と思い、そのまま翌日に。日が変わると少し熱は下がって娘も気分が軽くなったのか、ひたすら泣き叫ぶようになった。この日の夜に私は帰宅したのだが、妻も娘も別人のようにくたびれ果てていて、精神的にもかなり応えているようだった。
娘が泣いている理由はおそらく腹痛と空腹ではなかっただろうか。少し下痢が始まりだしていたし、ずっと水しか与えていなかったから、お腹がすいて怒っていたのだろう。でも医者や近所の子育ての先輩たちからは「悪くなるから何も食べさせない、おっぱいもあげない」と言われていたため、どんなに泣かれても授乳しちゃいけないと妻もかたくなになっていたのだ。娘の場合は最初によく吐いたため、下痢の方はあまり酷くはならなかったが、機嫌が悪いのかだんだん水ものまなくなって、本格的に脱水症状が心配になってきた。だんだん泣き方も弱くなり、しかし四六時中泣かれて、寝つきも悪く、身じろぎも緩慢になっている。でも授乳はできない。でもこのままでは、としばらく葛藤が続いていた。
私はとにかく水分を取らせたかったので「あまり沢山あげないようにして授乳してみよう。吐くようならやめて、吐かないならまた授乳してみて、明日病院に連れて行こう」と提案した。授乳に問題があるなら医者は止めるだろうし、よしんば悪化しても医者からの正しい処置で回復できるかもしれない。しかし、このまま放置して飲まず食わずでは、本当に弱ってしまい勝てる病気にも勝てなくなってしまうのではないか。私はそう思ったのだ。
翌日病院にいくと、妻は医者に怒られた。「ぐったりしてるなら、なぜすぐ病院につれてこないのか」と。なるほど、そりゃそうだ。「絶対に明日もつれてきなさい」と言われ、点滴を打ってもらい、下痢が始まったとのことで整腸剤を処方してもらった。
点滴を受けた娘はそれからよく眠り、目が覚めたらおっぱいをたっぷり与えて、また寝かしつけた。みるみる彼女は元気をとりもどし、よく眠り、無闇に泣かなくなった。まだ自分で座れないぐらいに衰弱しているが、それでもちゃんと目をあけて好きなおもちゃを手に取れるようになったし、中空に手を上げて時折バイバイをして見せたりする。それを見て私もようやく、格段に回復していると実感できた。今思えば、なにもあそこまで絶食にこだわる必要もなかったのではないか。と思えてくる。まぁ、なんにしろ快方に向かいつつあるのは確かのようだから、それはそれでよし。ひさびさに娘の笑顔をが見れて、とにかく私はほっとした。
しかし、ロタの怖いトコは、同じ病気にまたかかる可能性がけっこうあるらしい部分だ。完全な免疫ができればいいのに、そうはならないで再感染を何度も起こし、生涯免疫はできないらしい。少し体が大きくなると感染しても発祥しなかったり無自覚であったりするだけで、大人も感染しているというから怖い。
再感染予防には「清潔」が重要とのこと。あまり得意な分野ではないが、もう娘のあんな姿は見たくないので、妻と協力してがんばりたい。
テーマ:★★1歳児の日常★★ - ジャンル:育児










