その星では、一部の人間が強大な権力を持ってその他の人間を従えるといった文明の初期段階にありました。科学技術もまだまだ発展途上にあり、ほとんど宇宙に出てくることのない民族です。調査訪問と言っても公式な交渉ができるレベルではないため、ビザの申請も行わず潜入することにいたしました。宇宙法では、未開の星での滞在において侵略や占領を目的としない限りはどのような利益を得ようと処罰の対象とならないことになっているので、違法と言うわけではありません。
この星に下りてみて最初に感じたのは、この星の人間の騒々しさです。すべての人が何かに追い立てられているかのように落ち着きがない。労働と時間の制約に束縛され、息を切らしながら日々を送っているのです。 私は数日間の調査を経て、調査活動の目的を果たすために星の最高権力者と接触することにいたしました。しかし、どういうわけか権力者は私の存在をすでに認識しており、意思を伝えるだけで接見を快く受け入れてくれたのです。
「驚きました。この星では宇宙の広さを理解している人間が、まだいないものだと思っていましたので」
私は無礼にならないように細心の注意を払いながらそう言いました。
「確かにこの星では、ほとんどの者が宇宙に高度な文明があることを知らない。ただし知らないのは奴隷たちだけで、それ以外の人間はよく理解している。君がいつどこに到着して、ここで何をしていたのかの全部をね」
「そうだったんですか。それは大変失礼しました。宇宙ではここを未開の星と認識しているものですから、調査訪問の打診も行わなかったのです。今日からは認識を改めさせていただきましょう」
「それはさておき、何を目的にこのような未開の星に来たのだ。私に接見を求めた意味はどこにある」
私は敵意がないことを懇切丁寧に説明し、慇懃な態度でこう付け加えました。
「ですから、星の構成を成す物質と星をとりまくガスについて、さらには星ごとの文化や文明について研究していたわけです。そして実は、調査を進めるうちに気になったことがありましたので、それをどうしても星の最高権力者にお尋ねしておきたいと」
彼は私の話を聞きながら少し思案顔をして見せたりしましたが、特に怪しむと言った様子もなく、全面的に私の話を信用してくれたようです。
「なるほど。で、どんな内容のことだね」
「この星に住む人々は一様にあなたのために労働し、代償に得た賃金をまたあなたに献上している。喜んで人生のすべてをあなたに投げ打っているようですが、私のこれまでの調査では、そこには暴力もなく、契約もなく、シャーマニズムもなかった。とすればいったいどのようにして60億を越す人間をコントロールしているのでしょうか。私はこれまで様々な民族の文明を見てきましたがこのような例はほかにありません。あなたと民衆をつなぐものは一体何なのですか」
すると権力者は、いかにも「つまらない」という表情を見せてこう言いました。
「どうも誤解があるようだ。私が支配しているのは意見を持った民衆ではない。私に仕えるためこの星に住んでいるほとんどの人間は、ただの奴隷に過ぎないのだ。彼らにはなんら思考する能力も与えてはいない。家畜同様、ただ単純に死ぬまで働くだけだ」
私は驚いて言いました。
「60億を越す人間のほぼ全てが奴隷ということですか」
「その通りだ。そして彼らは奴隷であることにも気が付いていない。自分の意思で働き、自分の意思で星を富ませていると思っている。奴隷といっても、それぞれが好きでやっているのだから、だれも嫌がりはしない。そこには強制も信仰もありはしない」
私はこみ上げる笑いを堪えて、いたって神妙に言いました。
「知恵のあるものは誰一人いないのですか」
「へたに知恵をつけないように、ちゃんと教育を行っているんだ。その結果、彼らは自身の快楽のためにしか真剣にならない家畜に成長する。恋愛やギャンブル、名誉や平等や平和などのさまざまな快楽を創出し、自分の意思で好みの快楽を選択して、それらを享受するために死ぬまで働く」
「あなたと民衆を結び付けているのは、つまり依存ですか」
「そのように言えるかもしれない。彼らはそのことに気づきもしないが」
彼は満足そうに語ります。そして私は試すようにこう言いました。
「しかし、気づくかもしれない。いつ反乱が起こるかわからないとは思いませんか」
彼は声を出して笑い出しました。
「気づくきっかけを与えたりはしないさ。搾取の対象としての日常に不満を持たないように、愛こそはすべて、と教えておくんだ。洗脳と言ってもらってかまわない。それに、金銭にしろ物にしろ名誉にしろ、欲を掻き立てておけば極たまに満たしてやるだけで人は人生に満足するものだ」
「しかしこれからの宇宙社会で、この星はこのままでいられるでしょうか」
「これまで通りだ。私はこの星を支配し続けるし、君たちはこの星に干渉できない」
「しかし例えば、私がこの星の文明を正確に報告すれば、必ず全宇宙において民衆救済の運動が起こりますよ」
「奴隷達は君らの言うことなどに耳を貸すまい。星や宇宙のことなど、考えない方が彼らにとって幸せなのさ。彼らには、私が支配者であることも、自分達が搾取の対象であることも、まるで認識がない。ここでの君達は、救済者などではなくただのインベーダーなんだよ」
私はこれ以上の交渉に意味がないことを悟り、すぐにこの星をあとにしました。われわれの星に帰ってこの重大な情報をもたらすためです。
私はこれまで260の未開の星を調査いたしましたが、この星の発見が最大の収穫と言えるでしょう。この星こそ我々が探し続けた星に違いありません。ここなら宇宙法を犯すことなく、すぐにでも植民地化が可能です。60億もの奴隷をしたがえる支配者に、こっそり成り代わるだけのことですから。
テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学






